契約書作成・債権回収

契約書作成の重要性

企業取引においては、様々な場面で契約が交わされています。
ところが、実際には、全ての契約に際して、契約書が作成されるということはないように思います。
 
 「特に問題が起きていないから、契約書なんて作らなくても大丈夫。」
 「契約書の作成をすると、取引相手に信用していないと思われるので作らない。」
ということも少なくないのではないのでしょうか。
 
 確かに、契約は当事者の合意だけで成立するので、口約束でも契約は成立します(ただし、民法改正に伴い、保証契約については、契約書を作成しないと効力が生じませんし、法律で特別に契約の際に契約書等の作成が必要とされる場合がありますので、注意が必要です。割賦販売法、宅地建物取引業法、農地法、建設業法など)。
  しかしながら、弁護士事務所には、契約書を作成しなかったことによるトラブルの相談が、日々、数多く寄せられています。
 実際、契約の後でトラブルが起きて、「こういう内容の契約だったんです!」と叫んでみても、それを裏付ける重要な証拠である契約書が存在しないのであれば、事実を明確にすることはできません。最悪、裁判になっても、事実反して負けてしまうこともありえます。
 そのため、「まだ、トラブルがおきていないから。」ではなく、「トラブルをおこさないために」契約書を作る必要があるのです。


 また、事前に契約書が作成されていれば、何か問題が起きても、その契約書の条項にしたがって処理すればよく、トラブルの回避によって、取引相手との円満な関係が維持できることもあります
 つまり、取引相手のことを思って契約書を作成しないということは、一見、誠実なように見えますが、実際にはむしろ不誠実といえる場合があるのです。契約書の作成は、むしろ取引相手との友好な関係を継続するためにも必要といえるのです。

契約書作成のポイント

 本来、契約書を作成する目的は、契約内容を明確にし、事後的な紛争を防止することにあります。 
 そのため、当然のことながら、契約書を作成する際には、事後的な紛争の回避を意識する必要があります。
 
 しかしながら、実際には、契約書が作成される際、「形式的なものにすぎないから・・・」と、その重要性をあまり意識しないことを多いように思われます。

その結果、思わぬトラブルに巻き込まれることも少なくありません。

 では、契約書を作成する場合、どんなことに気をつければよいのでしょうか
 この答えを細かく突き詰めると、契約の種類に応じて、様々なポイントが考えられますが、各種契約全般について共通していうと、ポイントは次のようになります。

  • 契約内容をきちんと盛り込む
    (「書面ではこうなってますけど、実際はこうですよ」というのでは契約書を作る意味がありません。)
  • ゆずれない部分は、はっきりと正確に
    (何を売るのか、代金はいくらか、いつまでにするのか、経費は誰が負担するか、契約期間終了後はどうするのかなど、ゆずれない部分こそ、明確にしておく必要があります。)
  • 法律による制限がないか注意
    (たとえば、農地の処分は都道府県知事の許可がないと無効になるし、利息制限法以上の利息を定めても無効になるなど、契約書で定めたことが全て有効になるわけではありません。)
  • 形式はあっているか注意
    (当事者の表示、署名、契印、目的物の表示、日付、その他の形式を整えておかないと、契約書の証拠としての価値が低くなったり、なくなったりするおそれがあります。)

 なお、契約書を作成する際に、市販の契約書式を利用することがあると思いますが、その際には、次のようなことに注意する必要があります。

  • 今回問題となっている契約に必要なポイントがおさえられているとは限らない
    市販の契約書式は網羅的に記載されており、必ずしも今回の契約において重要なポイントがおさえられていることは限りません。
  • 公平とは必ずしもいえない
    たとえば、市販の金銭消費貸借契約書や賃貸借契約書は、貸主に有利で、借主に不利な条項になっているものがみられ、書式をそのまま利用すると、一方当事者に不利になってしまうおそれがありま す。
  • 法的に無効な条項も含まれている場合がある
    たとえば、市販の賃貸借契約書には、「賃料を1ヶ月分以上滞納した場合には契約を解除できる」などの条項がみられますが、これは法的には必ずしも有効とはいえず、注意が必要です。

 このように、市販の契約書式を利用する場合には、以上のような点に留意する必要がありますが、法律の制限があるか否かなどの調査には専門的な知識が必要ですので、詳しくは、弁護士などにご相談された方がよいでしょう

債権管理の重要性

企業活動をめぐっては、様々な契約が取り交わされることが多く、その際にきちんとした契約書を作成しておくことの重要性は既に述べたとおりです。
 もっとも、単に、契約書を作成するだけではなく、その前提としての債権管理のための準備や、契約後の債権管理を適切に行うことが重要です。

  • 契約相手の確認、信用調査

 契約の相手が法人なのか個人なのかをきちんと把握しておく必要があります。
 というのも、それ如何によって、契約によって発生する権利の帰属先がかわりますし、契約相手が会社の場合には、契約を有効に締結するために取締役会の決議が必要になったりと、注意が必要になるからです。
 なお、契約の相手が、日常的に「○○(株)」と称していても、実際には、法人登記がなされておらず、法的に会社とは認められないというケースもありますので、事前に、法務局で登記を確認する等の準備が必要です。
 また、契約の相手に関する信用調査を行うことも重要です。具体的な方法としては、公開されている有価証券報告書や貸借対照表を精査したり、信用調査機関を活用したり、場合によっては、相手から直接、信用状態に関する資料を提出してもらうこと等が考えられます。

  • 担保による債権保全

 契約によって発生する債権を保全するために、担保を確保しておくことが重要です。  
 縁起でもありませんが、契約相手が倒産すれば、大勢の債権者が我先にと債権回収に押しかけ大騒ぎになります。
 そんな中、首尾良く債権が回収できればよいですが、後日になって、詐害行為取消権や否認権を行使され、債権回収が水の泡になることもありえます。

 そして、結局、契約相手が破産した場合などには、微々たる配当にしかあずかれないという悲劇的なことがおこってしまいます。

 このような事態に備えて、事前に行う転ばぬ先の杖が「担保」です。

 担保には、様々な種類がありますが、大きく分けて、

・物的担保抵当権、根抵当権、仮登記担保、譲渡担保、所有権留保、相殺予約、質権
先取特権、留置権
・人的担保保証、連帯保証

 などが考えられます。

 これら各種担保の中から、契約相手や契約内容に応じて、適切な種類を選択して、担保設定をしていくことになります。
 なお、これら担保には、設定のための適切な方式担保設定契約書の作成)や対抗要件の具備 が必要になるものがありますので、注意が必要です。

  • 契約書、その他債権関係書類の保管

 契約書は当然のことながら、納品書、受領書、請求書等の債権関係書類も、事後の債権回収の際の重要な証拠になることがあるので、それらの適切なファイリング、管理が重要です。

  • 時効の管理

★2020.4施行の民法改正により、2020.4.1からは短期消滅時効が廃止され、一律5年(※)となります。
(※主観的起算点より5年、客観的起算点より10年)

 ついつい忘れがちではありますが、債権には消滅時効があり、一定期間、債権を放置しておくと、時効により消滅してしまうことがあります。
 特に、売掛金債権や約束手形などの債権には、通常より短い時効期間が定められていますので注意が必要です。

債権の種類消滅時効までの期間
小切手債権6ヶ月
手形債権(振出人に対して)3年
手形債権(裏書人に対して)1年
手形債権(裏書人からの遡求権)6ヶ月
売掛金2年
工事請負代金3年
貸付金5年
その他商事債権5年
飲食代、宿泊代1年

 なお、消滅時効は次のような手段で中断することができますので、消滅時効の完成の危険性がある場合には、素早い対処が必要です。

  • 催告
    とりあえず、内容証明郵便等で請求を行う。 
    ただし、催告してから6ヶ月以内に裁判上の請求(訴訟提起等)を行わないと中断しないことに注意。
  • 裁判上の請求
    訴訟提起、仮差押、仮処分、支払督促等を行う。
  • 法的倒産手続への参加
    破産、会社更生、民事再生手続等において債権届出をする。
  • 承認
    債務者に債務を承認させる。
    これには、支払猶予の申し入れ、債務の一部弁済も含まれる。
  • 信用不安情報等の確認
    契約相手の信用情報は適宜確認し、信用不安情報を得た場合には、債権回収を検討する必要がある。

債権回収の方法

契約相手が、契約上の義務を任意に履行しない場合には、債権回収を行う必要があります。

その方法としては、次のようなものが考えられます。

1. 事実上の回収

  1. 商品の引き上げ
  2. 代物弁済
  3. 相殺

2. 担保権による回収

  1. 担保権の実行
  2. 担保権の任意処分

3. 法的手続による回収  

  1. 訴訟提起、強制執行
  2. 債権者代位
  3. 詐害行為取消

4. 倒産手続による回収

  1. 法的倒産手続
  2. 任意整理手続

5. その他の回収

  1. 法人格否認
  2. 取締役等の第三者責任
  3. 営業譲渡、会社分割における承継会社等の責任

 このように、債権回収には様々な方法があり、速やかに適切な方法を選択し、回収作業をすすめていく必要があります。詳しくは、弁護士にご相談下さい